Archive for the ‘友人’ Category
ソプラノ歌手、多田佳世子さんとご主人で指揮者ダンテ・マッツオーラ氏、テノールの田代恭也氏、京都フィルファーモニー室内合
奏団のコンサートに行った。人間の声帯は最高の楽器というが、正しくその事実を眼前で、いや耳前で実感させられた。
洗練につぐ洗練、練られ発酵され熟成された豊穣がきらびやかに輝く。その鍛錬で培った冷徹な音符の根底に、情感という荒々しく
もあり繊細な陰翳が漂い炸裂するのだ。ピアニッシモの抑制された繊細な震えからフォルテッシモの力強く大胆で伸びのある昂りへ
と華麗に煌めく。クライマックスの美の絶叫、それがエーテルのようにホールに充満し、客席からは声にならない驚愕と賛嘆の波動
の震えが巻き起こる。プロフェッショナルの歌声とはこのようなものか!ただ呆然!音楽の一撃に酔い堪能した。
…..ぼくはオペラや歌曲には疎いのだが、美しいものは美しく、圧倒させる心地よい迫力のコンサートだった。
多田さんとは30年来の知り合いだが生の歌声を聞くのは20年ぶりだ。今回は「写真をお願いカッコよく撮ってね!」OK! OK!という
わけで友人のプロカメラマンT氏と出かけた。今夜はぼくはアシスタントだからね!と重い機材を担いでホールのあちこちから覗き
間近から聞いた訳だ。二人の以心伝心の掛け合い….そりゃ夫婦だもの、息がぴったり合ってあたりまえだね。
彼女は1991年ヴェルディ国際音楽コンクールで第三位を獲得、それ以来ほとんどをミラノで過ごしている。ご主人のダンテはオペラ
の殿堂ミラノスカラ座におけるチェンバリスとしての名声、そして指揮者としてはマエストロ リッカルド・ムーティの右腕として
世界的に活躍、現在は指揮法、ピアノ、オペラ、歌曲のための教鞭を執っている。ダンテは日本が大好きで居酒屋なんかに行くとそ
れはもう!おいおい、ビールや焼酎、南蛮漬けなんか食べないでモッツァレラにワインでも飲れよ。「ぼくはこっちの方がイイ!」
Io fui sorpresoだね。
あらためて成田一徹氏をご紹介しよう。彼は切り絵作家である。道具は白黒の紙とカッターナイフだけ。超シンプルである。
切り絵といえば、朴訥で、民話的で、版画的なのを彷彿させるが、彼はそこに一線を画すのである。より先鋭に、より微細に、
より内面的に…。そして現代という時のなかで生きている人間を描きたいのである。そこには市井の片隅で目立たず真摯に生き
てきた「生という皺、顔という刻、時間という証明」を切っ先に込めるのである。彼の苦闘ぶりを拝見すると、よくもまあ取材
にそれだけの労力を厭わないねと思わず声をかけてしまう。「嘘はつけませんから…。根本を掴めばそれからは飛躍と展開の創
作は…」。ナルホド、それで夜毎のカウンター巡り?「….いやいや反芻ですよ。逡巡ですよ。締切に追われ纏まらない七転八倒
が飲ませるのですよ」。そうかなー、まあ分かる気もするけど….。「だから若い人の顔は切れないいんですよ。扁平なんですよ。
顔ににじみ出る人間性というか時間というか、喜びも悲しみも幾年月が無いんですよ」。そういえば「東京シルエット」にしても
「神戸の残り香」にしても消えて行く場所、建物、技、仕事、人間。逝きし世の面影にこだわっていますね。
そして彼は演歌が好きだ。「うーん、生きているというどうしようもないこと。それを格好つけないむしろ下世話でダサく生臭い
吐息ね。ぼくだってそんなもんだから…」。謙虚な人だ。彼と知り合ったのは神戸大震災の少し前だった。それ以来、神戸で東京
でバーのカウンターで語ることが多い。彼は単なるイラストレーターじゃない。じゃアーチスト?そんなことを言えば酔いで赤い
顔をますます赤くするだろう。エッセイスト、それもある。アルチザン、ン、それも。…..飲み友達? それが一番。
ひどいはにかみ屋で真面目すぎる人だ。だから友人である。 彼のホームページとブログを是非ご覧ください。
●URL http://www.ittetsu-narita.com/ ●BLOG http://ittetsu-narita.com/blog/
● 「東京シルエット」切り絵・文/成田一徹:創森社 ● 現在神戸新聞夕刊に月2回「新・神戸の残り香」を連載中
★上の絵の成田さんの肖像は,ぼくが成田風に勝手に作ったものです。お許しください。背景は本物からです。
カメラマンAさんの訃報があった。前から闘病中とは聞いてはいたが…。様々な思い出が蘇ってくる…..。あのロケハン、あの仕事、
あのライティング、あのカット…。知り合ったのは彼が駆け出しの頃だ。「ハワイロケがあるんだけれど、ファーストクラスで顎足
つき、但しギャラは無し。行く?」「行きます!行きます!」。それ以来だ。気合いを入れたのだろう膨大なポジが届いた。
イイ出来だ。ぼくはMen’s Wearの商品企画やカタログの仕事だったから、それ以来撮影は彼と組む事が多かった。
いつか彼はMen’sのAと呼ばれるようになった。打ち合わせはいつもミナミのバーが多かった。ぼくの師匠であるSボスが総アート
ディレクター、ぼくはサブだ。ぼくがスケッチやコンテを描き、スタイリストに小道具を手配させ、無い物は手作りだ。他とは全然
違うストーリーのある絵を撮ろうぜ!1枚の絵にドラマがなきゃ…。ある仕事が終わりスタジオのセットの前で打ち上げの小パーティ
をやった。モデルが事務所に電話している。「Good Job, Good Staff」と聞こえる。ン、そうだろう。このプロ集団だもの。
…それが上記の写真だ。それからフアニチャー、ゴルフ、いろいろな仕事をチームでやってきた。夜明け前からカメラをセットして
朝日の昇るフェアウェイを狙ったり(Down the Fairwayそのものだね)。楽しい思い出がいっぱいだ。….まだ早すぎる死だった。
お別れの時、お棺にあの写真を入れた。最高のスタッフたちだ。A君、いつまでも君と友達だ。

成田一徹氏を紹介しよう。どこかのバーで見たことがあるんじゃいかな。ほら白黒だけの切り絵を。バーを斬らしたら右に出るもの
はいまい。彼のライフワークだ。神戸出身、東京と神戸を行ったり来たり。僕が東京に行けば二人でバーをハシゴ。彼が神戸に帰れば
二人ではしご酒。「バーの扉は日常と隔絶するためにあるんだ」「バーはタイムマシンである」「バーは魂の置き所なんだ」「酒を飲
むためだけじゃない。人に会いに行くんだ」。酒飲みの自己弁護、言い訳、何でもいいんだが、磨き上げられたカウンター、ボウタイ
をビシッと決めたバーテンダー、お手前のようなカクテルの動作。オーセンティック・バーはいいもんだ。
僕の言い訳は「オレ、スポーツ止めて長いだろ、だからバーに行くのはスポーツなんだ。変な顔すんな!そもそもスポーツの語源は
ラテン語で「気晴らし」だ。気晴らしのためにバーに行くんじゃないか!」。…無理があるね。日暮れともなると人恋しくなるんです。
ブログだってそうじゃないかな?何か人と繋がっていたいんですよ。そして日常から少しだけワープしたいんですよ。
だからバーに…。一杯、二杯、ほら少しは心が軽くなったでしょ…。成田さんの好きなレイ・ブラッドベリ「10月は黄昏の国」、お互
いに黄昏を感じる歳になりましたね。人生でいえば10月か?いやいや少年の気持ちさえあれば…。時折り、少年のような表情を魅せる
成田氏。彼のブログ「何処へ一徹切り絵旅」が始まる。足の向くまま、気の向くまま、彼の切り絵の世界を楽しんでほしい。